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「脱住宅」書評 公共空間、建築から政治へ示唆

評者: 間宮陽介 / 朝⽇新聞掲載:2018年05月19日
脱住宅 「小さな経済圏」を設計する 著者:山本 理顕 出版社:平凡社 ジャンル:技術・工学・農学

ISBN: 9784582544626
発売⽇: 2018/03/09
サイズ: 19cm/255p

今の「1住宅=1家族」システムに代わる新たな住み方「地域社会圏」システムを提案。住宅を支えるエネルギーやインフラ、介護の仕組み、家族の内側だけに頼らない子育ての仕組み等と…

脱住宅―「小さな経済圏」を設計する [著]山本理顕、仲俊治

 紙の上に円を描いてみる。円の内側は内部空間、外側は外部空間となる。少し色をつければ、それらは私的空間、公共空間として具体化することもできる。
 だが、都市の内外空間は公私空間に直結するわけではない。一軒家を取り巻く草原は外部空間ではあっても、公共空間とはいえまい。また、閑静な住宅地の閑静さは、公共空間を犠牲にした閑静さといってもいい。
 プライバシーとセキュリティーを謳(うた)い文句にした戦後の集合住宅も閑静な住宅地と似たものだった。住戸の内部と外部は物理的・社会的に分離され、その結果、私的空間は「一住宅=一家族」の閉ざされた空間、外部空間は諸々(もろもろ)のインフラストラクチャーに覆われた硬直化した空間となった。つまり、内外空間は公権力によって分離かつ管理される空間となった、というのが著者の見立てである。
 「脱住宅」とは、私的空間を外部に向けて開くことを意味する。そのための一つの策が、私的空間の中に、外側の空間を迎え入れる「閾(しきい)」という空間をつくることである。玄関をガラス扉にするという案は突飛(とっぴ)にみえるが、玄関まわりの空間を工夫することで、自宅ビジネスの小オフィスとして使うことができる。同様に、コモン・スペースの一部を住戸つきの菜園にすれば、外部空間は私化されるよりはむしろ開放度を増すだろう。公私空間の境を決めるのは住人だという本書の指摘は重要である。
 本書は建築・都市の公共空間論であるが、政治的公共空間論にも示唆を与える。共和主義は公共空間を重視する半面、私的空間を生活の巣とみなす傾向がある。一方、自由主義では、私的空間は自由の領域、外部空間は国家の領域とみなされ、正負の価値が反転する。共和主義か自由主義かではなく、二つが両立する政治空間を構想するとしたら、空間構成はどうあるべきか。本書は重要な示唆を与えるにちがいない。
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 やまもと・りけん 45年生まれ▽なか・としはる 76年生まれ。ともに建築家。共著に『地域社会圏主義』。