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「むらさきのスカートの女」書評 孤独を映し出す乾いた可笑しさ

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2019年08月31日
むらさきのスカートの女 著者:今村夏子 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:小説

ISBN: 9784022516121
発売⽇: 2019/06/07
サイズ: 20cm/158p

近所に住む「むらさきのスカートの女」が気になる〈わたし〉。自分と同じ職場で働くよう彼女を誘導し、その生活を観察し続け…。狂気と紙一重の滑稽さ。〈わたし〉が望むものとは? …

むらさきのスカートの女 [著]今村夏子

 芥川賞受賞作である。わくわくして読んだが、期待にたがわなかった。
 徹底して一人称で語られている。一人称の語り手はふつう、自分についてとうとうと説明したりしない。この小説でも、語られる内容はもっぱら、他者である「むらさきのスカートの女」(以下、「女」)のふるまいである。語り手である「わたし」は、ストーカーじみた異様に執拗な視線で、「女」の一挙一動を詳細に語る。それは「わたし」が「女」を見下しながらも、彼女と友だちになりたいからだ。そのために「わたし」は「女」の行動を密かに誘導しさえする。
 もっぱら「女」について語っているのに、語っている側の「わたし」の状況が文章の隅々から透けて見えてくる。「わたし」も「女」も、孤独で生活は厳しい。双子のように似ている。
 物語が展開するにつれて、「女」を見下していた「わたし」が、実は「女」よりもいっそう孤独で、いっそう悲惨な生を送っていることが徐々に明らかになる。最後に「女」は消え、「女」がいた場所にはいつの間にか「わたし」がすっぽりとはまっている。
 淡々と乾いた文章からは、不思議な可笑しさも立ち上る。でもその乾き方が、かえって彼女たちの孤独を映し出す。
 著者の「今日までのこと」という受賞エッセイも読んだ。1980年生まれの著者は就職氷河期世代であり、大学卒業後はアルバイトを転々としたという。その中でもっとも長く続けた職場が、この小説の主な舞台となっている。社会から見捨てられたような境遇に置かれた女性たちのうら哀しさは、自身の経験に裏付けられている。
 賞の選評の中には、「わたし」と「女」が同一人物ではないかと思わせるという指摘が複数みられた。そうではないはずだ。別人でありながら、「わたし」は「女」に重なり、そしてあなたと私にも重なるのである。
    ◇
 いまむら・なつこ 1980年生まれ。太宰賞受賞作収録の『こちらあみ子』で三島賞。『星の子』で野間文芸新人賞。