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「月下の犯罪」書評 20世紀ヨーロッパの非人間的光景

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2019年09月28日
月下の犯罪 一九四五年三月、レヒニッツで起きたユダヤ人虐殺、そして或るハンガリー貴族の秘史 (講談社選書メチエ) 著者:伊東信宏 出版社:講談社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784065168554
発売⽇: 2019/08/10
サイズ: 19cm/294p

1945年3月24日の晩、オーストリアの村レヒニッツで180人のユダヤ人が惨殺された。パーティの主催者は著者の大叔母だった。彼女の関与はあったのか? 事件の真相に迫ってい…

月下の犯罪 [著]サーシャ・バッチャーニ

 何代か前の自らの縁者の中に、ナチスのユダヤ人虐殺に関わった人物がいるとの報に接したジャーナリストの調査報告である。
 1973年生まれ、ハンガリー貴族の末裔である著者は、肉親、一族を知る人たちを訪ね歩き、その縁者、つまり大伯母はドイツ占領下のオーストリアで、戯れにユダヤ人虐殺に加担したのかを探る。浮かび上がるのは、祖父母や父母の世代を含めた20世紀ヨーロッパの非人間的な光景である。
 ナチスの強制収容所、ソ連の収容所、著者の筆は現代の難民にも触れていて、視点は次第に明確になっていく。そのプロセスが本書の意義を重くしている。ヨーロッパ各地やアルゼンチンにも足を運び、入手した祖母の手記を通して人間の原型図が確かめられる。「我々は、自分自身の身を守るためなら、突然従順になったり、義務を自覚したりしないと言いきれるのだろうか?」。辛い自問である。著者は、ノートに「否」と書いている。