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「ネット右派の歴史社会学」書評 過激な言説結集し巨大な流れに

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2019年10月12日
ネット右派の歴史社会学 アンダーグラウンド平成史1990−2000年代 著者:伊藤昌亮 出版社:青弓社 ジャンル:社会学

ISBN: 9784787234582
発売⽇: 2019/08/14
サイズ: 22cm/512p

ネット上で保守的・右翼的な言動を繰り広げる人々、「ネット右派」はどのように生まれ、いかに日本社会を侵食していったのか。その真の意図とは何だったのか。幅広い領域の動向を追い…

ネット右派の歴史社会学 アンダーグラウンド平成史1990-2000年代 [著]伊藤昌亮

 「ネット右翼」または「ネトウヨ」という言葉を最初に耳にしたのはいつ頃だったか。ネット上で過激な国粋主義の言説を展開し、しばしば排外主義に結びつき、ヘイトスピーチをまきちらす。そんな人々を漠然とイメージしているうちに、あれよあれよという間にその存在感は現実世界においても増していった。
 本書によれば、これらの言葉が広く用いられるようになったのは、2000年代半ば以降である。ただし、その起源はより古く、1990年代初頭、米国による日本異質論に対する反発から生まれた「反日国家」の枠組みが、やがてその対象を米国から韓国、そして中国へと移すことで発展したという。本書は「ネット右派」(著者はあえてこの言葉を用いる)の歴史を萌芽期から2010年代の成熟期まで追い、元々は種々雑多な潮流が最終的に合流する過程を詳細に論じた研究書である。
 サブカル保守の反リベラル市民、バックラッシュ保守の歴史修正主義、ネオナチ極右の排外主義などが、「嫌韓」を中心に、2ちゃんねるなどを舞台に結集していく。個別には耳にしていた名前や出来事が一つの巨大な流れとして整理され、読んでいて圧倒される。
 著者はこのような「ネット右派」を単純化して退けるのでもなく、かといって擁護するわけでもない。論調は批判的だが、内在的に理解することを目指している。本来、権威を批判する健全さや、弱い立場の人々に寄り添う側面もあったのが、むしろ抑圧的・威嚇的になり、「内なる差別」を生産するようになったのはなぜなのか。10年代半ば以降、「イノベーション」がなくなり、むしろ停滞期に入ったのはなぜなのか。著者は歴史社会学の手法から考察を進める。
 何が日本社会において「ネット右派」をかくも大きな存在にしたのか。複雑な思いと、ひりつくような焦燥感を持って、この本を読んだ。
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 いとう・まさあき 1961年生まれ。成蹊大教授(メディア論)。著書に『デモのメディア論』など。