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「野生化するイノベーション」書評 変革の芽 再び植え育てるには

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2019年10月26日
野生化するイノベーション 日本経済「失われた20年」を超える (新潮選書) 著者:清水洋 出版社:新潮社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784106038457
発売⽇: 2019/08/21
サイズ: 20cm/259p

「米国のやり方」を導入しても、日本企業の生産性が上がらないのはなぜか。「野生化=ヒト・モノ・カネの流動化」という視点から、イノベーションをめぐる誤解や俗説を覆し、日本の成…

野生化するイノベーション 日本経済「失われた20年」を超える [著]清水洋

 世は「イノベーション」ばやり。その言葉が流行していると言い換えた方がいいかも知れない。
 既存の技術や組織を駆逐するような変革をイメージしてきたから、秩序や既得権益、組織を維持しようとする政府や大企業が進めようとすることに違和感があった。そんなモヤモヤが本書で解かれていく。
 イノベーションは、既存産業に壊滅的ダメージを与え、人間社会を破壊し、それだけを追求していくと「『野蛮な社会』になってしまうかもしれない」。手元で飼いならすのは難しく、そうすれば本来の性質が失われる。ずいぶんと物騒ではないか。
 それでも、著者は日本が成長を取り戻すためには、イノベーションを再び活性化させるしかないと言う。かつては製造業を中心に大きな経済価値があるものを生み出してきた。再びできるのか、人や社会が傷つかない方法はあるのか。
 そもそも、この社会はイノベーション向きなのかも考えてしまう。その芽を摘み取ろうと思ったら「実績はあるの?」と尋ねる上司を数名用意すれば「あっという間にきれいになくなる」。短期的な達成が求められると、「ついつい、どうすればイノベーションの成果っぽく見えるか」になりがち。多くの人が思いあたりそうなことだ。
 イノベーションは、起きやすい制度や仕組みのもとで進む。人材も技術もカネも組織や国境を超えて流動化していき、統制できない。「野生化」が進むと、企業は手っ取り早くカネになる果実だけをもぎ始める。苗を植え育てる仕組みがないと、イノベーションのタネがない国になりかねない。それを作り、持続できるのか。それは幸せな社会につながるのか。
 閉塞状態から脱却する「魔法の杖」と気楽には考えられないイノベーション。本書から、成果があがらない背景、個人や社会への影響、日本の戦略の問題が浮き上がる。
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 しみず・ひろし 1973年生まれ。早稲田大教授。著書に『ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション』。