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セックスで傷つき、セックスで全肯定感を得る AV男優・森林原人さん×「夫のHがイヤだった。」著者Mioさん対談【後編】

文:吉川明子 写真:山田秀隆

 森林原人さん×Mioさん対談【前編】はこちら

 前編では、男性のセックス観を変えることの難しさを中心に語ってきたが、男性は男性で、「自分がリードしなくてはならない」というプレッシャーが常に付きまとっているという現実がある。女性の側も、「もっとやさしくしてほしい」「分かってほしい」という悩みを抱えているものの、実は当の本人が自分の性について分かっていない場合が多い、と森林さんは指摘する。

Mio この本では、私の苦痛を分かってくれなかった夫に対していろんなことを書いてきましたが、私自身も夫に期待しつつも、どういう雰囲気の時に自分が燃えるのか、どこをどうしてくれたら気持ちいいのか、ということをきちんと分かっていなかったことに、後になって気づきました。

森林 世の中の風潮にリードするのが男で、女はおとなしく控えめにしなきゃいけないというものがあります。そして、誰もセックスを教えてくれないので、AVを教科書にせざるを得ないという現状があります。Mioさんは自分がどんな時に興奮し、どうすれば気持ちいいかが分かっていなかったとおっしゃっていましたが、AVを見ている男性なら、自分の性的な好みや傾向を知る機会があります。例えば、清純な女性を乱れさせるのが好きなのか、女子校生に責められるのが好きなのかとか。でも、女性にはそういう機会がほとんどありません。

Mio 女性でも年上好みとか、SかMかと言ったりすることもありますが……。

森林 僕が講演会をするときに、女性のお客さんに必ずする質問があります。それは、「ドラえもんののび太、ジャイアン、出来杉くん、スネ夫の誰とセックスするのが一番いい?」というものです。ちなみに1位のび太、2位出来杉くん、3位ジャイアン、4位スネ夫なんですけど、博多だけはジャイアンが圧倒的に1位でした(笑)。それで、のび太を選んだ人に理由を聞くと、みんな「やさしそうだから」「嫌なことをしなさそう」と言います。自分の好きなセックスを選んでと言っているのに、「嫌なことをしなさそう」という消極的な理由が返ってくるんですよ。もし同じ女性に「好きな食べ物はなんですか?」と聞くと、ちゃんと答えられるはず。それは自分で選択する機会が、人生の中で何度もあったから。セックスだって女性も自ら選択する機会が必要で、そうすることで自分の性的な好みや特徴を把握できるようになるんです。

Mio 夫との関係に悩んでいた時、自分は気持ちよくなれない体質だと思っていました。自分が感じにくいから、彼を受け入れることができないと。だから、「オンナは三十路から」「出産したら感度が良くなる」といった噂に過度の期待をして心待ちにしていました。結局のところ全然変わらなかったんですけど。

森林 「三十させごろ、四十しごろ」ってやつですね(笑)。

Mio 自分は全然変わらなかったから、今度は早く歳をとって夫の性欲がなくなってほしいとばかり願っていました。性欲がなくなった夫とはうまくやっていけると信じていましたから。まぁ結局途中でたちゆかなくなって心を病み、他の男性とセックスをして快楽を得られるようになってようやく、「私の身体がおかしいわけじゃなかった!!!」ということに気づいたわけですが。

森林 僕は男女の関係性においてセックスが大事だと思っていて、セックスが合わなければ別れた方がいいと言い続けていますけど、子どもの存在や経済的な理由、世間体などで別れられない人も多い。そういう場合、どちらかが我慢して、無理をしてなんとか折り合いをつけていくか、相手に隠れて不倫や浮気をするか、ということになります。

Mio セックスを“外注”したのがバレると揉めますよね。私は今、行政書士、夫婦カウンセラーをしていて離婚業務を扱っているのですが、私のところに相談に来られる方でも、夫が異性としてみてくれなくなったことで悩まれている方はかなり多くいらっしゃいます。

森林 相手への愛情とセックスを一緒に考えてしまうからややこしくなるんです。愛とセックスが一致していれば素晴らしいけど、愛がなくてもセックスはできるし、Mioさんのように愛はあってもセックスがうまくいかないこともある。セックスを愛のバロメーターにすることで苦しい思いをするのは男性も同じです。「勃起」「挿入」「射精」の3条件がセックスの定義になっているのが現状で、男性が勃起しなきゃはじまらないので、女性もそのためのお膳立てをしなきゃいけないし、挿入も男性次第。男性も女性も射精しないとセックスが終わった気がしない。そう考えると、僕は「勃たない」「入れない」「イカない」の“3ないセックス”に重きを置く方がいいと思うんです。勃起や射精というわかりやすい目安がない分、相手とのコミュニケーションや一体感をどう得るかを考えることになるから、とても文化レベルの高いセックスになるんです。

Mio セックスって本来、好きな相手に触れたい、一緒になりたい、抱きしめられると心が安らいで心地いい、ということが根底にあるはずですよね。

森林 赤ちゃんの時は言葉が通じなくても抱きしめられると安心するし、心地よかったはずです。そういう感覚は誰にでも潜在的にあるはずですから。

Mio さきほどのセックス3条件もそうですけど、男女ともに「こうあるべき」という思い込みがあるゆえに、さまざまな悩みを抱えてしまうんでしょうね。

森林 あと、僕は相手を「征服する」「数を競う」というように相手をモノとして見ているか、人として見ているかという違いも大きいと思っています。相手を人として接してセックスすれば受容感や、だめなところもある今の自分のままでもいいんだと思える全肯定感が得られるし、自尊心の回復だってできるんです。Mioさんは夫とのセックスで傷ついて、他の男性とのセックスで自尊心を回復できたことで立ち直ることができました。さらには、同時並行で社会的に独立できたことも大きかったと思います。セックスで得られた全肯定感と、社会的自立が両輪になったところが特に素晴らしい。どちらか一つしかなかったら、そこに依存していただけかもしれなかったので。

Mio 私がこの本を書くことにしたのは、自分の失敗から学んだことを伝えることで、セックスによってこじれてしまう人たちが少しでも減ってほしいと思ったからです。セックスに対する思い込みや無知が原因で、お互いを憎み合ってほしくなかったんです。

森林 男のセックス観は絶対に変わることがないとか、絶望的なことをいろいろ言ってしまいましたが、僕はお互いが向き合い続ける先にしか未来はないと思っています。過去にすがっていてもだめだし、Mioさんが「いつか夫の性欲がなくなったらうまくいく」と思っていたように、未来を見すぎてもだめ。現在の積み重ねがあって、はじめてその先に未来がある。セックスだって、とことん向き合って積み重ねができることで、いつか二人で一緒にセックスを卒業できる日が来ると思うんです。

Mio セックスを諦めないことは、人生を諦めないということ。人は生きる悦びを求めていいし、求めるべきなんだと思っています。セックスレスの問題は、今や個人レベルでも社会的にも深刻なものになっています。だから、この本がパートナーと対等に向き合って一緒によろこびを模索するきっかけになればいいなと思っています。

 森林原人さん×Mioさん対談【前編】はこちら