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「オーバーストーリー」書評 樹木が語る 環境破壊への危機

評者: いとうせいこう / 朝⽇新聞掲載:2019年12月21日
オーバーストーリー 著者:リチャード・パワーズ 出版社:新潮社 ジャンル:欧米の小説・文学

ISBN: 9784105058760
発売⽇: 2019/10/30
サイズ: 20cm/674p

【ピュリッツァー賞(2019年)】南北戦争前、アメリカ中西部である男が庭に植えた栗の木。絶滅の危機に瀕した巨木の「声」に召喚された名もなき人々。国家と巨大企業に、身のほど…

オーバーストーリー [著]リチャード・パワーズ

 今月初頭、海外の日本文学研究者たちに呼ばれてパリに行き、様々な質問に答えた。ちょうどカルティエ現代美術館で「樹木展」が開かれており、大変評判で会期が延びていた。
 ブラジルやチリなど、樹木の大量伐採が進行している場所のアーティストたちが絵画で危惧を表明する内容はきわめてシリアスで、欧州のエコ意識が差し迫っているのがわかった。
 その関連書籍売り場の最もいい場所に置かれていたのが小説『オーバーストーリー』で、多くの人が手に取っていたものだ。
 ただしフランス語の題は『樹木―世界』と訳せるもので、もともと「オーバーストーリー」が「樹冠」をあらわす英語だから(多数の登場人物の重なりあいをも示唆する)、単純化で主張を前面に出している。
 アメリカ文学の旗手である著者パワーズ自体、徹底した〝環境破壊への危機意識〟でぶ厚い本書を書いている。作品の中で、多くの登場人物がそれぞれ大きく異なる背景を持ちながら生まれ育ち、しかし次第に森林伐採に抵抗する人物へと変化していく様は、いわゆる小説的に立場を複数化し平均化するものではない。
 むしろ植物の生に関する最新の学問を引用し、樹木が成分や匂いを出しながら互いにコミュニケーションしていることや、種を飛ばすことを移動と考えれば彼らは動くということなどを次々に書き込み、最終的に樹木の上で暮らして伐採に抵抗したり、ニューヨークのオキュパイ運動に参加したりすることを善ととらえて大著は進むのだ。
 すさまじい量の資料を読み、取材をして書かれた一文一文の重さ、濃さ。それは森林伐採への著者の危機感をあらわし、同時に植物を含めた生物観への移行を提示する。「動物主義は、進化論を内面に取り込んだ人間中心主義にすぎない」(エマヌエーレ・コッチャ著『植物の生の哲学』)という今年訳された本の一節を置いておく。
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Richard Powers 1957年、米国生まれ。作家。『エコー・メイカー』で全米図書賞。本作でピュリツァー賞。